1959年に誕生したプログラミング言語COBOLが、現在でもFortune 500企業における金融取引の約85%を処理していることをご存じでしょうか。
一方で、熟練したCOBOLエンジニアの72%が今後10年以内に退職すると見込まれており、企業にとって早急な対応が求められる深刻な人材ギャップが生じています。
本記事では、COBOLとは何か、なぜ多くの企業が今なおCOBOLに依存しているのか、そして将来に向けてどのような戦略を検討すべきかを包括的に解説します。COBOL人材の維持に投資すべきか、それともシステムのモダナイゼーションを進めるべきか――その判断に必要な視点を提供することを目的としています。
COBOL言語とは?
COBOL(Common Business-Oriented Language)は、1959年に業務・金融・管理系システム向けに開発された手続き型プログラミング言語です。
Webやモバイルアプリケーション向けに設計された現代的なプログラミング言語とは異なり、COBOLは大量のトランザクションデータを高い精度で処理することを目的として設計されました。この特性は、現在においても銀行、保険、官公庁システムにおいて不可欠な要件となっています。
COBOL言語の大きな特徴の一つは、その冗長性にあります。英語に近い構文を持つため、プログラマーでなくても業務ロジックを理解しやすい一方で、現代的なプログラミングパラダイムに慣れた開発者にとっては、違和感を覚える場合もあります。
以下は、単純な金額計算を行う例です。
| COBOL | Java |
| ADD PRICE TO TAX GIVING TOTAL-PRICE. | totalPrice = price + tax; |
COBOLアプリケーションは、一般的にメインフレーム環境上で稼働し、バッチ処理やファイル操作はJCL(Job Control Language)によって制御されます。これらのシステムは、複雑な計算処理、データ検証、法規制対応レポートなど、企業の中核となる収益創出業務を支えています。
COBOLプログラミング言語のメリット

証された安定性
大手銀行におけるCOBOLシステムは、数十年にわたり99.999%という極めて高い可用性を実現してきました。COBOLは記述が明確で型付けが厳格な言語であるため、実行時ではなくコンパイル時にエラーを検出でき、型の曖昧さに起因する連鎖的な障害を未然に防ぎます。
他に類を見ないスケーラビリティ
COBOL言語を実行するIBMメインフレームは、1日あたり300億件ものトランザクション処理が可能であり、クレジットカード決済、証券取引、社会保障システムなど、極めて高い処理能力が求められる基幹業務を支えています。また、バッチ処理を前提とした言語設計により、膨大なデータ量を効率的に処理できる点も大きな特長です。高度なデータ処理能力
COBOLは固定小数点演算を採用しており、金融計算における丸め誤差を排除します。 また、順次アクセス、索引アクセス、相対アクセスといった多様なファイル処理方式を標準でサポートしており、用途に応じた最適なデータアクセスが可能です。夜間に数百万件のレコードを処理するような環境では、これらの最適化により、処理時間を数時間単位で短縮することができます。
現代的な統合・連携能力
現在のCOBOLシステムは、REST APIとの連携、JSONやXMLの処理、SQLデータベースとの接続に対応しており、AWS、Azure、IBM Cloudといったクラウド基盤への展開も可能です。
さらに、モダナイゼーションツールを活用することで、長年にわたり検証されてきた業務ロジックを保持したまま、COBOLプログラムをWebサービスとして公開することができます。
COBOLは今も使われているのか?
はい。COBOLは60年以上の歴史を持つプログラミング言語ですが、その強みから現在でもミッションクリティカルな業務に不可欠な役割を果たし続けています。ロイターによると、世界全体で約2,200億行のCOBOLコードが、政府機関や銀行における日々の基幹業務を支えています。
JPMorgan Chase、Wells Fargo、Bank of America、Citigroup、Deutsche Bankといった大手金融機関は、基幹銀行業務やリアルタイム決済処理にCOBOLを活用しています。また、MetLifeやPrudentialなどの大手保険会社では、契約管理や保険金請求処理にCOBOLが用いられています。
アジアにおいても、みずほ銀行や三菱UFJ銀行といった日本のメガバンクは、COBOL基盤の継続的なアップグレードを進めています。さらに、シンガポール、韓国、マレーシアの政府機関では、税務処理や行政サービスを支える基幹システムとしてメインフレームが利用されています。
深刻化する市場動向と人材不足
COBOLが現在も広く使われている一方で、企業は人材の高齢化と供給不足という大きな課題に直面しています。COBOL人材の不足により、エンジニアの年収は年間12万ドルを超える水準に達していますが、それでも多くのポジションが充足されていません。
その結果、企業は重要な選択を迫られています。既存システムを維持するために人材の確保・定着に投資すべきか、それともモダナイゼーションによって技術基盤そのものを変革すべきか、というジレンマです。
この判断は、各組織の事業特性、リスク許容度、そして戦略的な優先順位によって大きく左右されます。
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COBOL言語エンジニア人材をどのように確保・定着させるか
大手金融機関では、長年蓄積された組織的な業務知識を失わないために、数百万ドル規模の人材定着施策が進められています。以下は、実証されている4つのアプローチです。

1. 手遅れになる前に知識を継承
政府機関の事例では、体系化された知識継承プログラムにより、12〜18か月で重要なシステム知識の約85%を形式知化・継承できることが示されています。効果的な取り組みには、以下が含まれます。
- シニアエンジニアと若手が並走して行うペアプログラミング
- 業務ルールやシステム特有の挙動を短期間で整理・記録するドキュメンテーションスプリント
- 複雑なロジックを解説するシニアエンジニアの動画記録
- 日常業務における問題解決プロセスを観察・学習するシャドーイングローテーション
重要なポイント:定年退職の少なくとも2年前から着手することが不可欠です。退職の意思が示されてからでは遅すぎます。
2. 既存エンジニアの再教育
多くのエンジニアはJavaやPython、JavaScriptに精通していますが、COBOLまるで外国語を学ぶかのように感じられる言語です。加えて、メインフレーム上でCOBOLを制御するJCL(Job Control Language)の理解・習得も必要となります。
このアプローチは有効ですが、相当な投資が必要です。短期集中型のCOBOL研修は、1人あたり3,500〜4,000ドル(3〜5日間)が一般的です。10名規模のチームでは、通常業務から離れる時間を含めずとも、直接費用だけで35,000〜40,000ドルに達します。
3. 市場水準に見合った報酬と、やりがいのある業務を提供
市場の現実:
- 初級〜中級COBOL言語エンジニア:年収75,000〜95,000ドル
- シニアCOBOL言語エンジニア:年収95,000〜120,000ドル
- エキスパートレベルの専門人材:年収120,000ドル以上(競争の激しい市場では、さらに高額になる場合もあります)
ただし、報酬だけでは人材は定着しません。成功している企業では、以下施策を組み合わせて実施しています。知識継承の達成度に連動したインセンティブ
- リモートワークや柔軟な勤務形態
- レガシーとモダン技術をつなぐモダナイゼーション案件への参画
- 後継者の育成を完了した段階で支給されるリテンションボーナス
4. ハイブリッド型の技術チームを構築
「COBOL担当」と「モダン技術担当」を分断するのではなく、両者が協働する統合チームを構築します。
なぜ有効なのか? COBOLのベテランは業務ロジックとシステムアーキテクチャを理解し、モダンエンジニアはクラウド、API、最新ツールに精通しています。この組み合わせにより、重要な機能を損なうことなく段階的なモダナイゼーションが可能になります。
チーム構成例:
- システム知識に精通したシニアCOBOLエンジニア:2〜3名
- クラウド/API開発を担うエンジニア:2〜3名
- 両領域を理解するアーキテクト:1名
- モダナイゼーションの優先順位を管理するプロダクトマネージャー:1名
これらのチームには慎重なマネジメントが求められます。COBOLのベテランとモダンエンジニアでは、コミュニケーションスタイルや仕事の進め方が異なる場合が多く、明確なプロトコルと相互尊重が成功に不可欠です。
人材定着戦略の限界
人材定着(リテンション)戦略は一定の効果を発揮する場合がありますが、企業が正しく認識しておくべき構造的な課題も伴います。
時間的制約と採用難
知識継承には最低でも12〜18か月を要します。さらに、COBOL言語人材市場は年々縮小しており、若手エンジニアの多くは、レガシー保守よりもAIやモダンクラウド技術を志向する傾向があります。
投資リスク
COBOLエンジニアの育成には、数千ドル規模の教育投資が必要です。しかし、わずか6か月後に競合企業が大幅に高い報酬を提示した場合、その投資は自社ではなく競合の利益に転じてしまう可能性があります。
システム進化のスピードが遅い
COBOLシステムはモノリシック(単一構造)で設計されており、モジュール単位での変更が困難です。そのため、モバイルバンキングなどの新機能追加には、数週間ではなく数か月を要するケースも珍しくありません。
技術的負債の蓄積
人材育成は既存コードの運用方法を教えることはできますが、根本的な構造問題を解決するものではありません。長年にわたるパッチ対応や暫定対処、未文書化の変更が積み重なり、システムは徐々に脆弱性を高めていきます。連携の複雑化
COBOL言語は最新技術と技術的には連携可能ではあるものの、必ずしもシームレスではありません。多くの場合、COBOLとモダンAPIの間に「ラッパー」システム(変換レイヤー)を構築する必要があり、これが新たな障害リスクや障害要因を生み出します。
コンプライアンスコストの上昇
サイバー保険会社は、レガシーシステムを運用する企業に対し、40〜60%高い保険料を課すケースがあります。これは、COBOL環境が最新の暗号化標準やリアルタイムのセキュリティ監視に対応しづらいためです。
自社にとって人材定着戦略は適切か?
COBOL人材の定着戦略は、すべての企業に適しているわけではなく、特定条件下の組織において有効です。以下のチェックリストで自社との適合性を確認できます。
財務状況
- ✓ 大規模な初期投資を行う余力が限られている
- ✓ 継続的な運用費用を賄える安定した予算がある
- ✓ メインフレーム環境はすでに償却済みである
システム特性:
- ✓ COBOLシステムが巨大で文書化されていない「ブラックボックス」状態である。
- ✓ 業務ロジックが極めて複雑で、安全にリバースエンジニアリングすることが困難
- ✓ 業務ルールの変更頻度が非常に低い
- ✓ システムが長年にわたり法的・業務的に検証・認証されている
リスク許容度:
- ✓ システム停止を一切許容できない
- ✓ 移行ミスが事業に致命的な影響を及ぼす
- ✓ 厳格な規制業界で事業を行っており、再認証が必要
組織対応力:
- ✓ 変化をIT部門内に限定して吸収できる
- ✓ 全社的な新しいインターフェースへの再教育が不要
- ✓ 12〜18か月にわたる知識継承期間を確保できる
人材定着戦略が機能しない兆候
- ✗ 市場競争に対応するため、迅速なシステム変更が求められている
- ✗ 技術イメージの問題によりIT人材の確保が困難
- ✗ サイバー保険料が過度な負担となりつつある
- ✗ リアルタイムなモバイル連携などのモダン機能が必須
- ✗ メインフレームの運用コストが収益を圧迫している
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COBOLアプリケーションはモダナイズすべきか?
モダナイゼーションとは、数十年にわたり実証されてきたCOBOLコードを廃棄することではありません。価値ある業務ロジックを維持したまま、COBOLシステムの機能や運用の在り方そのものを変革することを意味します。それは、歴史ある建物を全面的に建て替えるのではなく、強固な基礎を残しながら、インフラを現代の要件に合わせて改修することに例えられます。
Kyndrylが2024年に実施した調査によると、アジアの金融機関の77%が、COBOL人材の引退ペースが育成を上回る状況を背景に、すでにモダナイゼーションに着手しています。
企業がモダナイゼーションを選択する理由
人材確保の容易化
縮小し続けるCOBOL言語人材市場で競争する代わりに、モダナイゼーションにより、Java、Python、クラウド技術に精通した数百万人規模の開発者人材を活用できるようになります。保険会社では、モダナイゼーション後にエンジニア採用までの期間が3〜4倍短縮されたという報告もあります。
俊敏性の向上
基幹システムをモダナイズした銀行では、新たなデジタル機能の市場投入までの期間が50〜80%短縮されています。従来のCOBOL環境では数か月を要していたモバイルバンキング機能の追加も、数週間で実現可能になります。
運用コストの削減
メインフレームからクラウド基盤へ移行した企業では、年間200万〜500万ドル規模のインフラコスト削減が報告されています。さらに、モダンなシステムでは、サイバー保険料を40〜60%低減できるケースもあります。
シームレスなシステム連携
政府機関では、従来6〜12か月かかっていたシステム連携プロジェクトが、4〜8週間で完了する事例も報告されています。モダナイズされたシステムは、最新のアプリケーションやAPIと同一の技術スタックで連携でき、脆弱な「ラッパー」システムに依存する必要がなくなります。
詳細な導入戦略、技術的アプローチ、実際の事例については、こちらの包括的なガイドをご覧ください。
どのような場合にモダナイゼーションを選択すべきか?
モダナイゼーションには初期投資と慎重な実行が求められますが、以下のような現実に直面している企業にとっては、有力な選択肢となります。
事業面でのプレッシャー
- ✓ 競合が次々と新機能を投入し、市場シェアの低下が生じている
- ✓ モバイルファーストでリアルタイムなデジタル体験を顧客が求めている
- ✓ モダンプラットフォームやAPIとの頻繁な連携が必要
人材危機
- ✓ いかなる条件でもCOBOLエンジニアを確保・定着できない
- ✓ COBOLの熟練人材が今後2〜5年以内に退職予定
- ✓ 技術スタックの問題により若手エンジニアに採用を断られている
財務的な現実
- ✓ 戦略的投資として50万〜500万ドル規模の予算を確保できる(システム規模に依存)
- ✓ メインフレームおよびCOBOLの保守費用がIT予算の30%以上を占めている
- ✓ サイバー保険料の上昇が無視できないコスト要因となっている
戦略的コミットメント
- ✓ デジタルトランスフォーメーションが経営レベルでの優先事項となっている
- ✓ 新機能を月次または四半期単位で継続的に提供する必要がある
- ✓ 長期的な価値創出を見据え、12〜24か月の変革投資を許容できる
モダナイゼーションが必須とは限らない兆候
- ✗ 業務ルールがほとんど変化せず、俊敏性が競争優位に直結しない
- ✗ 経営層の支援や専用のモダナイゼーション予算が確保されていない
- ✗ メインフレーム基盤がすでに償却済みで、低コストかつ安定稼働している
まとめ
COBOL言語は、今後すぐに姿を消す技術ではありません。グローバルな金融取引の基盤に深く組み込まれており、その存在感は依然として大きなものです。いま問われているのは、COBOLが存続するかどうかではなく、高齢化が進む人材構造という課題に、各組織がどのように戦略的に向き合うかという点です。
- 維持・継承を選択すべきケース:規制産業において安定稼働しているシステムを保有し、変更リスクに対する許容度が低く、大規模投資の余力が限られている一方で、長期的なナレッジ継承にコミットできる場合。
- モダナイゼーションを選択すべきケース:事業の俊敏性が求められ、人材不足が深刻化しており、既存の維持策だけでは対応できず、デジタルトランスフォーメーションを支える基盤が必要な場合。
実際には、多くの大企業がこの二つを併用しています。すなわち、触れることができないミッションクリティカルな領域では知見を維持しつつ、進化が求められるシステムについてはCOBOL開発パートナー段階的なモダナイゼーションを進めるというアプローチです。
重要なのは、業界動向やベンダーの主張に左右されるのではなく、自社の事業特性、リスク許容度、時間軸を踏まえ、どのシステムがどの領域に該当するのかを冷静に見極めることです。
現在成果を上げている企業は、拙速な刷新ではなく、長年にわたり蓄積された実証済みの業務ロジックを保全しながら、段階的にモダンなアーキテクチャへ移行する現実的なアプローチを採用しています。リホスティングによる短期的な効果、リファクタリングによる本質的な改善、あるいはレガシーとモダンをつなぐハイブリッド型アプローチなど、成功の鍵は、綿密な計画、適切な人材、そして経営層のコミットメントにあります。
何もしないことによるコスト──人材不足、運用リスク、競争力の低下──は、計画的な変革への投資をはるかに上回ります。まずは自社におけるCOBOL資産の全体像を正しく把握し、事業戦略と時間軸に合致した最適な道筋を選択することが、次の一歩となります。
FAQ
COBOLは最新の技術と連携できますか?
はい。現在、多くの企業が IBM Connect、Micro Focus Enterprise Server、AWS Mainframe Modernization などのプラットフォームを活用し、COBOLで実装された業務ロジックをRESTful APIとしてカプセル化しています。これにより、既存コードを大きく変更することなく、モバイルアプリやクラウドサービスからメインフレーム機能へ安全にアクセスすることが可能です。また、最新のCOBOLコンパイラは AWS、Azure、Google Cloudへのデプロイやコンテナ化にも対応しており、クラウド環境での柔軟な運用が実現されています。
COBOLは長期的なリスクとなるのでしょうか?
COBOL自体が直ちに大きなリスクとなるわけではありませんが、主体的な対策を講じなければ、そのリスクは顕在化します。
最大の課題は人材構造です。今後10年以内に、経験豊富なCOBOLエンジニアの約60%が退職すると見込まれている一方で、体系的な人材育成パイプラインは限られています。ただし、計画的なナレッジトランスファーや競争力のある報酬制度を導入している企業では、コスト効率を保ちながら業務の継続性を維持できています。技術面では、COBOLは最新コンパイラやクラウド対応により、今後10〜15年以上にわたって十分に実用可能と考えられています。
真のリスクは、人材流出が進んだ後に場当たり的な対応を迫られることであり、事前にモダナイゼーション戦略を確立していないことにあります。

